男性デザイナーがつくったものと女性デザイナーがつくったものは明らかに違う 1-2(小泉達治さん・有限会社コイズミデザインファクトリー 代表取締役)
男性デザイナーがつくったものと女性デザイナーがつくったものは明らかに違う
【ワークライフスタイル・インタビュー:1-2】
小泉達治 さん(有限会社コイズミデザインファクトリー 代表取締役 )
http://www.koizumidesignfactory.com
---- 聞き手: 前田めぐる
----- 面白いですね。ところで、女性の感性を信頼して一緒にお仕事をされてきていて、実際にクライアントさんからの印象はどうですか。
あなたのところは、こんなところがいい、あきらかに他と違うと言われるなどの評価はありますか?
■小泉: はい。まず、うちのクライアント、たとえば印刷会社などは男性の営業担当者のほうが多いんですね。
そうするとクライアント社内で男性デザイナーがつくったものと、うちの女性デザイナーがつくったものは、明らかに違いますし、そう言われます。
いい悪いではなく、差異がある。つまり先方にはないものを持っているということで、重宝されます。
男性のデザインと女性のデザインはどうしても違うんです。
たとえば、グラフイックデザインでパンフレットなどつくっても、やはり男性のつくったものと女性のつくったものは違います。
うちにしてみれば、自然で普通のことなんですが、クライアントにしてみれば「違う」となるんです。
女性は細かいところまでデザインします。たとえば、ぼくならインパクト勝負でバーンと作って、細かいところは後で考えようとします。ところが女性スタッフの場合は、最初から細かいところまでデザインします。
きちっと詰めた上で組もうとしますね。その点は明らかに違います。
----- 字詰めとかタイポグラフィの選び方とか、違いますよね。
■小泉: そうですね。ラフなんかでも、ダミーの文章なんかでもこだわって貼りつけていますね。
----- よくダミーだからと「これはダミーです」っていうテキストデータがびっしり連打してあるラフがありますが、ああいうのはどう思われますか。
■小泉:あれは、見た目がかっこよくないですよね。どこかに「らしい文章」を見つけて貼り付けるようにしますね。ダミーですって入れても、タイトルとキャッチにはそれなりの、ダミーの本文でも、冒頭のところはそれらしい感じの文章にするとか。
----- やっぱり(笑)。そうですよね。
■小泉: ええ、日本語って漢字もひらがなもあるわけです。
その内容によって、出てくる漢字があり、字面があります。
その本文に、全くキャッチやタイトルと異質な漢字や、かながたくさんあると、妙な違和感は出てくるんですよね。
そのあたりを、男性はあまり考えない。中には「□(四角)ばかり並べとけばいいか」となる人もいます。でも女性は違いますね。
そういう細やかさは大きく違います。
----- そうですね。文字もやはりひとつのデザインですね。
■小泉:そういう細かいところまで、クライアントが見ているか、気づいているかどうかは別にして、やはり提案する側の雰囲気というものもある。
----- きっと、見てらっしゃいます。
もし、気づかなくても、やはりあるだろうと思います。
■小泉: そうなんです。気づかないかもしれない。でもそういうものの積み重ねなんですよね、デザインって。
気づくところばっかりじゃないんです。
----- そういうことをトップとしてお考えというのも、ひとつには、Mac以前の時代をご存知であることはずいぶん大きいような気がします。
字詰を一所懸命詰めたり、そういうことを苦心したりしていました。
DTPに切り替わって以降、そういう部分は希薄になっている気がしますが、そういう意味でのギャップを感じることはおありですか?
■小泉:それはあります。特に文字組みなどはそうです。デジタルになってからあいまいな文字組が横行しました。それは単純に組む側のスキルがなかっただけで、コンピュータのせいではないんですね。
コンピュータができないわけではなく、使い手のスキルがなくて、そういうことが起きていました。
ところが、そういうものがスタンダードになってきていて、イマドキ風に見せるためのテクニックにもなったりもしてます。
特に最近は、若者向けのカルチャー誌などでわざわざそういう文字組みにすることもあります。
最初はマイナスだったものが、スタンダードになってきたために、それを活かすようなときもあります。
かつてのようにきれいな文字組だけがベストではなくなってきた。
それを使い分けられるかどうかというのがデザイナーの力量なんだと思います。
いまどきのデザインはできるけれど、本来のきれいなデザインのできる。使い分けられる。そういう両方できるデザイナーは少ないと思います。
もちろん、機械的にソフト上で美しく詰めてくれるものはあるし、長文などでは使えるんですね。
ただ、キャッチ1本どーんと目に飛び込んでくるようなときは、スキルが問われます。
----- 主婦のかたはどれくらいの割合ですか。
■小泉:3名+在宅スタッフ1名。在宅スタッフはお母さんでもあります。半分が主婦ということになりますね。
----- なるほど!そういう今の構成になるまで、一番最初ってあったわけですよね。
女性スタッフさんに「結婚するけど、できればこのまま続けたい」と言われたとき、どうでしたか?
■小泉: 正直、どうしようかなって考えたんです。
で、現実に一番最初に主婦になったのは、うちの家内なんです。結婚してからもスタッフとしてしばらく仕事をしていたんですが、子どもができたときに、ちょっと体調も崩してしまい、専業主婦になりました。
それ以外で最初に「結婚します」と言ってきたスタッフは同時に2人だったんです。で、そのときに女性がスタッフ3名いたんです。3名のうち2名なので、その事実を受け止めて、なんとかやっていくしかないと思いました。
独立して5年目くらい。20 年以上も前のことです。ふたりとも結婚しても仕事はしたいと言っていたので、相談しました。できれば残業がないほうがということで、給与は減りますが、残業なしにしました。
当然キャパが減るので、スタッフを1名増やしました。
確かに最初不安がありました。一番がんばってくれていたスタッフが結婚して残業なしになりましたから。
-----それでも、続けてこられて、だんだん主婦としてのキャリアもできていくわけですよね。そのあたりは、仕事として活かされたり、クライアントに対して何か変化があったりしましたか。
たとえば、クライアントにアドバイスするとき、主婦としての意見が役に立ったりとか。
■小泉: 社内で、序列ができるんです。いい意味で、です。
たとえば、掃除の仕方ひとつにしても、お茶を出した後の片付けとか、細かいことですが、新人のうちはどこからどう手をつけていいか分からないんです。
そういうことも、ちゃんと手本を示したり、まとめ役になってくれたり。
当時若手だったスタッフが今もいてくれるんですが、それは助かったといいますね。その教えられる側だったスタッフが今はまた若手を育ててくれている。
----- 非常にいい循環ができていますね。
働き続けるうえで、結婚、出産といった女性のライフイベントは本当にネックになります。
■ 小泉:同じように働くことはなかなか無理ですからね。
そのかわり、結婚しても出産しても仕事が続けられるということをうちは優先して考えています。当然、独身のうちから、それにかなう人材になってほしいということを言うし、スタッフたちも自覚しています。
-----在宅の社員さんは、やはりお子さんがいらっしゃるから在宅なのですか。
■小泉:そうです。今度3人目のお子さんが生まれると聞いています。
-----実際にそういう事例が目の前にあるわけなので、新入社員の方も「ああ、ここは子どもを産んでも、仕事が続けられる会社だ」と思いますよね。
■小泉:そうなんです。続けられるなら、頑張ろうと思うでしょう。
結婚したら辞めないといけない、デザイナーでなくなるとなれば勉強はしないし、新しいことを学ぶ精神力が途切れます。
しかし、続けられると思うから、意欲が違う。
実際うちの社員で25 歳くらいの時期のスキルをみてもらっても、他社と違うだろうと思いますね。皆、とても学んでいるし、一人一人の能力が高い。事務所にとってそれは財産です。
一般の企業ももっとひとりひとりを大事にしようと考えたらいいんでしょうけど、杓子定規に見えますね。まず、制度ありみたいな。
-----そうですね。女性を活用しているという企業でも、まだ社会がそうだからとか、大手などはそう言わないと対面が保てない部分もあるでしょう。
制度優先で、時代に引きずられての女性活用だと、いろいろな軋轢が起きることもあります。 やはり。御社のように女性を進んで採用したいんだと思われて、スタッフさんもそれに応えたいとなれば、状況が全然違ってきます。
会社のビジョンと自分のライフイベントが合致していないと、ちぐはぐになります。
■小泉: そうですね。男性社会がつくった決め事だからそうなるのだろうと思います。
結局、スピリットがそこになくて、形式的に女性を雇っても意味が無いでしょう。男女共同参画だとか、男女平等、機会均等だとか言っても、きめごとばかりです。それが、逆に変に平等扱いしなくてはならないということになってしまう。
本来、男性と女性が平等というのは無理だと思います。
それは、差別ではなく、本質的に違うし、得手不得手もあるでしょう。
それなのに、ハローワークでも「男女の区別は付けられません」と機械的に言われてしまう。年齢に関してもそうですけど。どの職業でも男女差はつけられないかというと、接客業でホステスさんならつけられると。
じゃあ、女性用の下着の販売員の求人ははと聞くと、区別できないそうなんです。でもそこに男性が応募して採用されるわけがないでしょう。そんな意味のない、歪んだ平等が分からないんですね。
うちなどは、女性スタッフがほしいのに、それはできない。
規則で縛るのではなく、もっと道徳的に女性活用を考えられないかとトップの人には言いたいです。
-----それ、すごく分かります。
■小泉:でしょう?規則で決めてどうこうっていうことじゃないですよね。
そこが欠けていて規則だけで決めるから、軋轢(あつれき)がおきているんだと思います。
----- なるほど。女性を上手く活用できないときに、言い訳として「制度ができてない」「社会構造が未熟」だという話になりがちですが、その「道徳」で考えるというのはすごく分かります。
女性の活躍というと、男性に負けないようにということだけがそうだとは、私は思わないんですね。
たとえば、御社で女性の No.2 やスタッフさんがきちんと業務を支えているというのも素晴らしい活躍です。
家庭では父権というか、大黒柱があって、それを支える内助の功があります。
それが家庭の中だけで押し込められてしまって、いざ社会にでるときに「男性と同じように働きなさい」と言われてしまいますね。適性や職業でもそういうモラルみたいなものがあるはずですね。適材適所というか、いい意味での役割を知るというようなところは活かせばいいと思います。
それは、ずっと女性を活用してこられた御社だからこそ、いまの形が一番やりやすいということになってきているんだと思います。
>続く